価値創造から伝達まで幅広くマーケティング領域を経験
スモールジャイアンツスタジオを起業する以前のご経歴を教えてください。
中川:母が伊藤忠商事のファッション部門にいた影響で、高校の頃からファッションビジネスに携わりたいと思っていました。『伊勢丹な人々(川島 蓉子 著)』という本を渡されたこともありますし、慶応大学に進学したのも「伊勢丹に就職しやすい」とされていたからです。大学在学中はファッションショーのサークルに所属し、服飾専門学校にも通いました。
専門学校の研修で、群馬県桐生市の染色工場や尾州の織物産地を訪ねたとき、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた繊維産業が斜陽化している姿を目の当たりにしました。でも、地方には今でも素晴らしいものづくりをしている人たちがいて、代々培ってきた技術もあります。その方々がきちんと評価されずに苦戦している現実を知り、「なんとかできないか」と強く思いました。
「日本のものづくりの担い手を助けたい、生活者との架け橋になりたい」。そんな想いから、就職活動時には「広義のマーケティング領域に携わりたい」という軸で商社なども見ましたが、最終的には三越伊勢丹を選びました。伊勢丹にはオリジナル商品や自社ブランド開発の部署があり、作り手との協業ができそうでしたし、海外展開にも強そうだと感じたからです。
新宿本店にある「イセタンガール」というフロアで、接客・販売、売場づくり、管理など、店頭業務全般を学びました。しかし、伊勢丹で学んだ一番大きなことは、「人・モノ・訴求・展開」という考え方です。「誰が売るか」「何を売るか」「どう伝えるか」「どう見せるか」という4要素のかけ合わせで、お客様に提供する価値が最大化する。まさにマーケティングの基礎だと思います。
その後、複数の転職を経験されていますね。
中川:はい。とはいえ、軸は一貫しているつもりです。私には「作り手により深く関わりたい」「よりマスに向き合うマーケティングを経験したい」という気持ちがありました。また、コトラーの言葉を借りれば、価値創造と価値伝達の2つがあってのマーケティングです。私も、コンセプトやモノをつくる価値創造の部分と、プロモーションの領域である価値伝達、どちらも経験したいと考えていました。
伊勢丹から転職した先は、JMR生活総合研究所です。ここはマーケティングリサーチ会社とコンサルの中間のような存在。多様な手法でリサーチをしながら、その結果を分析し課題を抽出するのが主な業務でした。次に転職した博報堂コンサルティングでは、より事業側に踏み込んだ価値創造を経験。国内大手企業の新規事業開発やブランディング、マーケティング戦略策定に従事しました。すると今度は、価値伝達を経験したくなり、2016年から電通Y&R(現在は電通東日本と事業統合)で、アカウントプランナーとして地域ブランディングや企業の統合コミュニケーションに携わりました。池上線沿線を活性化させる「生活名所」プロジェクトなど、多くのステークホルダーを巻き込み世の中の心を動かす手応えを得られたのは大きな財産です。
2019年には、ユーザベース出資のスタートアップ・ミーミルへ。ここでは売上拡大や組織構築に牽引、コンサルや広告代理店などの「支援業」ではなく「当事者」として事業にコミットし経営の一端を担うことで、より大きく成長できました。人間的に成長する場としても、ミーミル(ユーザベースグループ)は素晴らしかったと思います。当時の業務内容やダメだった頃の自分のことはnoteに全部書いて辞めたので、よければ読んでみてください(笑)。
▼4年半の在籍を経て起業を決意したミーミル執行役員が語る、ミーミルに入ったからこそ向き合えた「自己変革」
https://note.com/mimir_note/n/n8c386977c487
創業142年の泡盛メーカーを支援、新商品のヒットにより企業売上1位に
その後、起業に向かうわけですね。
中川:直接のきっかけとしては、ミーミル在籍中から副業で支援していた沖縄の泡盛メーカー・まさひろ酒造との取り組みが大きかったです。SNS広告運用から始まり、海外向け商品のプロデュースや基幹商品のリニューアルに至るまで、深く関わらせてもらいました。社名や肩書きを使わず個人として結果を出せたことで自信がつきましたし、他にも複数の地方企業から声がかかるようになり、自分の初心に立ち返りました。
スモールジャイアンツスタジオを立ち上げたのは、僕が大学時代から思い描いてきた「日本のものづくりの担い手を助けたい、生活者との架け橋になりたい」というミッションを、ボランティアではなく、商売として成立させたいと思ったからです。自分ひとりがフリーランスとしてお金を稼ぐこともできると思いますが、それは自分が本当にやりたいこととは違います。社名に「スモールジャイアンツ」と掲げたのも、スモールなものをジャイアンツにすることに、自分の命をかけようと決めたからです。
現在の事業は、大きく3つの柱があります。
1つめは中小企業支援です。中小のものづくり企業に対して、コンサル×広告代理業のような形で、商品のプロデュースからプロモーション、販路開拓などを包括的にサポートします。まさひろ酒造との取り組みは今も続いています。創業142年の老舗泡盛メーカーですが、泡盛市場で売上1位を達成したのは、初めてのことです。
2つめは大手企業との協業です。中小のものづくりを輝かせるためには、大手企業の力も借りる必要があります。大手と組むことで中小企業への新たな販路やネットワークを作れる。収益面でも安定基盤ができ、より多くの中小企業を支援できるようになると期待しています。
3つめは、お酒の自社ブランド「CRAFT WONDER 」です。支援先の酒造の方々に数量限定のプレミアムなお酒をOEM製造をしてもらっています。それを自分たちが買い取って販売し、利益をきちんと還元していく取り組みです。
同じく中小企業のビジネスプロデュースを行う競合他社と比べて、スモールジャイアンツスタジオの強みは、どこにあるとお考えですか。
中川:シンプルに言えば、プロデュース力とネットワークの2つです。多彩なタレントと独自のネットワークによって、ブランドづくり、マーケティング、クリエイティブ、販路開拓、EC、事業モニタリング、M&Aなど、成果をつくるまで一貫して「伴走」できるのが、私たちの強みであり、従来のコンサル会社や広告代理店との違いです。また、クライアントに持続的な売上と利益をもたらすには、そこまでしないといけないともいえます。
「エッジ」となる得意領域を持ちつつ、他領域に手を伸ばせるか
スモールジャイアンツスタジオでは絶賛ビジネスプロデューサー職を募集していると伺いました。どんな人と働きたいと思っていますか?
中川:「日本のものづくりを本気で輝かせたい」という強い思いがあるのが、スモールジャイアンツスタジオで働くうえでの大前提です。
もうひとつ条件を挙げるなら、自分の「エッジ」となる専門領域を持っていることです。ブランディングや広告、PR、営業といった何かしらの強みをひとつ持ちつつ、それ以外の領域にも柔軟に手を伸ばせる人が理想です。スモールジャイアンツスタジオでは、営業だけ、PRだけといった分業体制をとっていません。広告代理店でいうプロデューサーのように、上流のコンセプト設計から実際の販路開拓やPRの実行まで一貫して伴走するのが当社のやりかた。もし「分業制がいい」と思うなら、正直うちは向いていないかもしれません。
▼スモールジャイアンツスタジオのビジネスプロデューサー職に応募する
※相談内容に「スモールジャイアンツスタジオ応募」とご記載ください
社内は現在7名。各々のバックグラウンドはバラバラですが、「日本からひとつでも多くの”小さな巨人”を生み出す」というミッションを共有し、全員が高い当事者意識を持っています。今後も組織は大きく増やすつもりはなく、信頼できる仲間を少しずつ増やしていく方針です。最終的には「困ったらスモールジャイアンツスタジオに相談しよう」と言ってもらえるような、中小ものづくり企業の駆け込み寺になれたらと思っています。
最後に、広告やマーケティングの世界でキャリアを積んでいる若い世代に、アドバイスをいただけないでしょうか。
中川:肩書きや年収など表面的な条件を一度横において、「自分は誰に対して、どんな価値を提供したいのか」をじっくり考えてみるのがいいと思います。僕の場合は、大学時代に出会った縫製工場の職人さんの顔が思い浮かびます。そういう人たちを支えたいという気持ちが、自分のキャリア選択の大きな原動力でした。もちろん大企業で安定を求める生き方もありますが、自分が本当にやりたいことを仕事にできたら、人生はもっと充実するはず。まずは「本心からやりたいと思えることは何か」という問いを自分に投げかけてみるのが、いいのではないでしょうか。
ありがとうございました。
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Small Giants Studio, Inc.について
「日本からひとつでも多くの”小さな巨人”を生み出す」をミッションに掲げ、酒類、食品・農業、伝統工芸など、技術や情熱がある小さなものづくり企業の事業やブランドの高い価値を創り、持続的な売上と利益を生み出すビジネスプロデュース事業を展開。
URL:https://www.smallgiantsstudio.com/
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